運送業で起きやすい労災事故とは?

運送業で起きやすい労災事故とは?よくある事故の要因

運送業における労働災害は交通事故が多いと考えられがちですが、実際は荷役関連作業に起因する災害が上位を占めています。新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響で宅配便を利用する人が増え、それに伴って宅配便取扱個数が増加していることもあり、労災発生件数も増加傾向にあります。

本コラムでは、運送業における近年の労働災害発生状況、労災が適用されるケース、労災保険を受ける方法をお伝えいたします。運送業に携わる皆様に、ご参考にしていただけますと幸いです。

 

数字から見る運送業の労災状況

陸上貨物運送事業労働災害防止協会が公表している陸運業の労働災害発生状況では、令和3年における死亡者数は95人(前年比+8)、死傷者数は16,732人(前年比+917)となっており、死傷者数は平成15年以降最多を記録しています。

 

死亡災害では「交通事故」にて37人(前年比+4)を記録しており、全体の約40%を占めています。死傷災害では、「墜落・転落」にて4,496人(前年比+181)、次いで「動作の反動、無理な動作」にて2,984人(前年比+250)、「転倒」にて2,813人(前年比+209)、「はさまれ・巻き込まれ」が1,605人(前年比+16)を記録しました。

運送業の人材不足、ドライバーの高齢化が問題視されており、今後も労災件数の増加が予測されます。

参考:陸上貨物運送事業労働災害防止協会.労働災害発生状況

 

運送業で発生しやすい労災の種類

運送業は様々な業種の中で死傷者数が上位に当てはまり、製造業や建設業に次いで労災が発生しています。具体的な労災の種類としては、運搬中の交通事故はもちろん、トラックに荷物を積む・トラックから降ろす作業時の事故や長時間の運転により同じ姿勢が続くことで腰痛や首の痛みが発生するケースも挙げられます。

また、運送業は長時間労働になりやすい傾向にありますが、それに伴う精神疾患や過労死も労災に該当することがあります。過労死・精神疾患における労災認定は通常の労災と異なるため、まずは弁護士に相談してみることをお勧めいたします。

 

労働災害が認められる要件

労働災害(労災)とは、労働者が業務中・通勤中に負傷、疾病、死亡することを指します。運送業におけるよくある労災は、交通事故による怪我が典型的なものと思われますが、長時間運転による腰痛や荷物を積み下ろす際の事故も労災に含まれます。

では、具体的に労災に認定されるにはどのような条件があるのか、説明いたします。

 

【労働災害が認められる条件】

労働災害と認められるには、下記の2つの認定基準を満たすことが必要になります。

 

◆業務遂行性

労働者が使用者との労働関係を結んでいることが必要となります。したがって、労働契約以外の業務委託契約関係である場合、この基準は満たさないことになります。

 

◆業務起因性

業務が原因となった災害であり、業務と疾病・傷害等に因果関係があることを指します。したがって、業務中に私的行為を行って災害に遭った場合はこの基準を満たさないことになります。

 

【腰痛は労災に認められるのか】

労災保険の対象は、労働基準法施行規則35条に基づく別表12に列挙されており、「重量物を取り扱う業務、腰部に過度の負担を与える不自然な作業姿勢により行う業務その他腰部に過度の負担のかかる業務による腰痛」と定められています。基本的にはこちらの要件に該当するため、労災保険の対象になります。しかし、トラック運転手の全員が該当しないのが実情です。

労災保険を使用できるのは、業務災害が起因であると言える場合です。トラック運転手の腰痛について労災保険を適用するには、長時間の運転や荷物の積み下ろしによって腰痛が発症したと結論付ける必要があります。厚生労働省においては、

 

・約3ヶ月以上

・長距離運転手として稼働

・筋肉などの疲労により腰痛を発症

 

上記の3点を満たした場合に労災保険の対象となるとされています。

したがって、運転業務に携わる前からヘルニア持ちである場合は業務が原因で腰痛が発症したと言えない為、労災保険の対象外になるケースがあります。

 

労災事故に遭った時の対処方法

労災事故は予期せず発生するため、対処方法を事前に知っておくことが重要です。運送業で労災事故に遭った場合の対処方法は以下の通りです。

 

【労災保険の申請】

一番にするべきことは労災保険の申請です。労災保険にはいくつか種類があり、申請することで、治療費、休業補償、傷病給付等の補償が受けられます。申請するのは被災者本人または遺族が行う必要がありますが、場合によって書類が必要であったり、複雑な場合もございます。労働災害申請手続きの詳細は以下のページに記載しておりますが、ぜひ弁護士に相談してみることをお勧めします。申請できる労災保険の種類や申請方法に不安がある方は弁護士にご相談してみてください。

労働災害申請手続きの方法

 

労災保険以外の損害請求

【事業主への請求】

荷物の積み下ろし時の労災の場合は事業主へ請求することが可能です。それは、事業主は安全配慮義務という責任を負っており、労働災害が発生した際はこの責任を果たしていないことによる損害賠償請求が可能になるからです。そのため、事業主はトラックの定期メンテナンスや荷物の積み下ろし時の安全対策をしていなかった場合、事業主は安全配慮義務違反となります。安全配慮義務違反であるかどうかは、専門家でないと判断しづらいケースもあります。請求できるかどうかがわからない場合は弁護士に相談して判断を仰ぐことも必要になります。

 

事業主以外への請求】

交通事故の労災の場合は加害者への請求が可能になります。加害者も業務中における事故だった場合、加害者を雇用している企業に対して損害賠償請求を行うことも可能です。この場合、基本的には企業を相手にしてやり取りを行うことになりますが、対企業の場合は弁護士が相手になることがほとんどですので、こちらも弁護士をたて、請求を進めることが得策と言えます。

 

【請求可能な項目】

労災保険以外に事業主や第三者に請求可能な項目は主に以下の通りです。

・治療費

・入通院交通費

・入通院付添費用

・入院雑費

・休業損害

・逸失利益

・葬儀費用

・慰謝料

・物損に関する費用

 

おわりに

いかがでしたでしょうか。運送業における労災は今後増加することが見込まれます。実際に労災に遭ってしまった場合も、補償、慰謝料の請求を行うにはいくつものハードルが存在します。当事務所ではいくつもの労働災害対応をした実績があります。まずはお気軽にご相談ください。

 

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